2)言葉の意味の、その先

歌詞を順に読んでいくと「遊郭に通う男性の姿」が浮かび上がってくる。全体を通してその男性の恋の物語になっていることが読み取れる。作詞者が「何を伝えたくて遊郭を舞台にした歌を作ったのか」までは分からないが、情景を表す言葉の一つ一つが考え抜かれているなぁと感じた。

 

例えば。

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笑えないこのチンケな泥仕合 唐紅の髪飾り あらましき恋敵
触りたいベルベットのまなじりに 薄ら寒い笑みに
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「あらましき」とは、人の言動が荒々しい、粗暴な、といった意味。そのまま受け取ると、遊女を取り合う他の客は粗野な荒くれものなのか、となるが、前後の意味とつなげると以下のような情景が浮かんでくる。
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遊女が唐紅の髪飾りをつけている。他の客(恋敵)からもらった贈り物なのだろう。なんという【強敵】(たぶん金持ち)だ。それを見せつけて、俺が手を触れられない遊女は「このぐらいの贈り物も持ってこられないの?」冷笑している。
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つまり、「あらましき」は粗暴と言う意味ではなく、「対抗が難しい(強敵である)」ことを表現している。普通なかなか「あらましき」という表現が発想として出てくる人も少ないと思うが、直接的な意味は意味としてあるが、別のことを表す違った言葉だと分かったうえで、敢えて
 ・その先で何を表現するか
を考えてこの言葉を使っている、と読み取れる。深い。

 

他にも。
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御目通り 有難し 闇雲に舞い上がり 上滑り
虚仮威し 口遊み 狼狽に軽はずみ 阿呆晒し
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そのままの意味で取ると
「(なかなか会えない相手に)やっと会えた、ありがたい。だから有頂天になってしまって、何言ってるのか自分でもわからない。『自分はこれだけ偉いんだぞ、金持ちなんだぞ』と虚勢を張ってみたり、突然思いつくまま歌を歌いだしたり、挙句におろおろしてしまって更にいい加減なことを言ってしまった。馬鹿丸出しだ」
になるが、途中がおかしい。

 「口遊み」⇒思いつくまま歌を歌いだす

ここも直接的な意味ではない。口遊みには本来歌を歌う意味しかないのだが、前後を考えると「思いつくまま【口からでまかせ】をいう」といった意味に解釈すべきだ。こういったあたりが深くて面白いと感じた。

 

じゃあ何故そのように「本来の意味ではない言葉」を使うのか。

 

これは、実際に作詞作曲をやったことのある人間なら事情が分かる。
人によって流儀は違うが、単純に「曲を作って、後から歌詞をつけるか」「歌詞を先に作って、後か曲を合わせるか」といった流れがどうしても出てくる。完全に同時に、というのはまあ無いだろう。私は「先に曲」派なので「メロディに合わせて言葉を選ぶ」時の苦しみがよくわかる。音数の制限を受けた状態で言葉をひねり出すことになるからだ。
時代背景を踏まえた言葉で雰囲気を保ちつつ、音数も合わせる、といった調整の中で、「多少意味は違うが前後を考えれば伝わる」単語を選び出すセンスには脱帽しかない。

 

他にもそういう箇所がもう1か所。
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愛おしいその声だけ聴いていたい 半端に稼いだ泡銭 タカリ出す昼鳶
下らないこのステージで光るのは あなただけでもいい
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昼鳶とは日中明るいうちに表れる泥棒。空き巣やスリのこと。しかしここも前後を踏まえると以下のような情景が見えてくる。
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愛する遊女とだけ話をしたいのに、労せずして得た金でちょっと景気が良いからといって、【幇間や芸者】が出てきてチップを要求してくる。こんな騒々しい場所は嫌だ。あなた(遊女)だけでいい。
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泥棒ではなく、花代とか呼ばれるチップを要求してくる賑やかしの芸人や世話人の姿が浮かんでくる。そもそも「昼鳶」なんて言葉をよく知ってたなぁという所がすごい。考えている最中にひたすら検索したのかもしれないけど。

 

こういった、言葉の意味の、その先が、この歌詞の何よりの魅力だと感じた。

 

(続く)